研究概要 |
水銀は、あらゆる生物に対してごく低濃度で強い毒性を示す重金属として知られている。本研究は,高度水銀耐性鉄酸化細菌Acidithiobacillus ferrooxidans MON-1株の水銀還元能を利用して、大量の水銀汚染土壌から省エネルギー的に水銀を気化・回収できる技術の開発を目指している。前年度、鉄酸化細菌で見出された新規2価鉄依存性の水銀気化システムが、水銀耐性鉄細菌が持つ特徴的な生物機能であることを確証するために、MON-1株からcytochrome c oxidase(cyt. c oxidase)を高度に精製し、精製酵素が二価鉄の代わりに、cyt. c oxidaseの電子供与体として知られている2,3,5,6-tetramethyl-p-phenylenediamine(TMPD)を電子供与体にして水銀気化を行うことを示した。本年度は,MON-1株から精製したcyt. c oxidaseを用いて更に解析を進め、2価鉄、TMPDばかりでなく元素硫黄も電子供与体にして2価水銀を金属水銀に還元できること、この還元・気化活性が1mMのシアン化ソーダの存在で完全に阻害されることを明らかにした。また、MON-1株のcyt. c oxidaseは5μMの塩化第二水銀存在下でも、水銀無添加時の約40%の活性を保持しているのに対して、水銀感受性株から精製したcyt. c oxidaseは1μMの水銀存在により完全に阻害さることを見出した。この結果は、MON-1株のcyt. c oxidaseは感受性株よりも水銀耐性であることを強く示唆しておりその分子機構に興味が持たれる。現在まで、鉄酸化細菌A.ferrooxidansに、有機水銀分解酵素(organomercurial lyase)遺伝子と同遺伝子産物merBの存在は報告されていなかった。11種類の鉄酸化細菌菌株を0.1μMのp-クロル安息香酸第二水銀(PCMB)を含む二価鉄無機塩培地(pH2.5)に接種し、30℃で振とう培養した。無機水銀に耐性であったMON-1株が他の鉄酸化細菌株に比較して有機水銀に対しても耐性であることを見出した。また、MON-1株洗浄細胞が、PCMB、酢酸フェニル水銀(PMA)、メチル水銀よりHg^0を気化できることを明らかにした。A.ferrooxidans ATCC23270株由来merAをクローニングし、大腸菌内で発現、部分精製し、MerB活性測定の際MerB用活性により生成したHg^<2+>を還元するのに用いた。MON-1株細胞質画分をDEAEカラムに供試した結果、0.1M溶出画分にmercury reductaseが、0.3M溶出画分にPMA分解活性が存在していることを見出した。以上、鉄酸化細菌中にMerB様酵素の存在を初めて明らかにした。
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