我々は、海洋細菌Alteromonas sp.O-7株および好熱性放線菌Streptomyces thermoviolaceus OPC-520株のキチン分解系に関与する遺伝子の発現調節機構を明らかにする目的で研究を行っている。特異的塩基配列を含むキチナーゼA遺伝子の上流域のDNA断片をプローブとするゲルシフトアッセイを用い、Alteromonas sp.O-7株の細胞内タンパク質を各種クロマトグラフィーにより分画したところ、複数のタンパク質がプローブを認識することを認めた。これらのうち、細菌のシグナル伝達系であるレスポンスレギュレーターArcAがキチン分解系に関与する遺伝子の発現調節機構に関与するタンパク質として同定された。そこで、センサータンパク質であるArcB遺伝子およびArcA遺伝子のクローニングを行うとともに、大腸菌による発現系を構築した。リン酸化ArcAは、キチン分解系に関与するキチナーゼ、プロテアーゼ遺伝子の特異的塩基配列を認識することをフットプリンティング法により確認した。さらに、キチンの構成糖であるN-アセチルグルコサミンおよび関連糖によりArcBからArcAへのリン酸転移が促進されることを認めた。したがって、ArcA、ArcBは糖代謝系に関与し、N-アセチルグルコサミン過剰供給下において、キチン分解系に関与する遺伝子の発現を負に制御しているものと思われる。現在、ゲルシフトアッセイで陽性の結果を示した分画を2次元電気泳動により分離後、トリプシン消化を行いMALDI-TOF/MSおよびMASCOTを用いて、網羅的にタンパク質の同定および機能解析を行っているところである。一方、S.thermoviolaceus OPC-520株においても、Alteromonas sp.O-7株と同様の方法により特異的塩基配列を認識するタンパク質の特定を進めている。現在、N-アセチルグルコサミンおよびキトビオースの輸送系であるABCトランスポーター遺伝子の上流域に転写調節タンパク質をコードする遺伝子が存在することを認めている。今後、この遺伝子の発現系を大腸菌で構築し、ゲルシフトアッセイおよびフットプリンティング法を用いて特異的塩基配列を認識するか否かを確認する予定である。
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