研究概要 |
酵母が他の酵母を殺すキラー作用は、真核生物が生産する抗菌蛋白質のモデルになる。本課題では、キラー蛋白質(Kluyvcromyces lactis酵母Killer protein=KIKP)が、出芽酵母の表層に結合後、細胞内へ殺菌情報が伝わる機構を明らかにする。昨年度は、KIKPを高純度に精製し、抗体を作成した。この材料を用いて、KIKPを作用させた細胞では、KIKPのα、γサブユニットが細胞内へ侵入することを明らかにした。 しかし、侵入したサブユニットは、細胞内の不溶性画分(膜画分)に局在し、検出が不安定であった。今年度は、可溶化方法を検討し、特殊な界面活性剤存在下で超音波処理を行うことで、可溶化の再現性が向上した。一方、KIKPに耐性を示す酵母株を検索した結果、MAPkinase経路の1つであるCell Wall Integrity経路(CWI経路)の遺伝子欠損株(センサーであるWsc1,2,3、MAPKKであるBck1,MAPKであるMpk1の各遺伝子破壊株)がKIKP耐性を示した。また、Mpk1は、KIKP処理後、リン酸化を受けた。さらに、CWI経路活性化を抑制するために、恒浸透圧条件下でKIKPを処理すると、細胞はKIKPに対して耐性を示した。以上のことから、KIKPによって感受性細胞のCWI経路が活性化されることが明らかになった。 CWI経路は、その他の多くの抗菌物質でも活性化されることが報告されている。通常は、活性化により抗菌物質耐性を示し、経路の遺伝子を破壊すると、抗菌物質に対して感受性になる。しかし、KIKPの場合は逆の結果になった。また、KIKPの細胞表層標的物質はキチンである。従って、CWI経路の下流にある、キチン合成経路が活性化されることで、細胞はKIKPによってより大きな障害を受けることが推測される。
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