クロマチン構造を介した遺伝子発現制御におけるArpNαの機能を解析する目的で、出芽酵母におけるオルソログであるAct3/Arp4の遺伝子発現制御における機能を解析した。まず、Act3/Arp4のATP結合能を調べたところ、弱いながらも結合が認められた。これは細胞核のアクチン関連タンパク質のATP結合能を示したはじめての結果である。Act3/Arp4のATP結合部位に変異を導入した酵母株を作成して、これを以降の解析に用いた。この株でのNuA4ヒストンアセチル化複合体の分子量をゲル濾過により解析したところ、野生株と比べて複合体の量が増加していることが認められた。また、アセチル化されたヒストンの量も増加していた。このことは、Act3/Arp4へのATPの結合がNuA4ヒストンアセチル化複合体の解離に必要であり、このATPの結合による複合体の解離によって、ピストンのアセチル化活性が制御されている可能性を示唆している。 また、ArpNαの神経細胞分化への関与を解析するため、ArpNαを恒常的に発現するP19EC細胞を作成し、解析を行った。通常P19細胞は、レチノイン酸処理後に細胞塊を形成すると神経細胞に分化する。しかし、この細胞では、レチノイン酸の処理なしでも、細胞塊を形成することにより神経細胞様の形態への分化が観察された。また、この細胞ではE-およびN-カドヘリン遺伝子の発現の増大が観察された。この結果から、ArpNαが一群の遺伝子の発現制御を介して脳・神経細胞への分化に関与することが示唆された。
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