研究概要 |
細菌は細胞密度の変化に対応して様々な現象を引き起こし,細胞密度依存的遺伝子発現制御機構はクオラムセンシングと呼ばれている。グラム陽性枯草菌(Bacillus subtilis)は、抗生物質生産、胞子形成、コンピテンス(形質転換能)の獲得などの特徴を有しており、コンピテンスの獲得はクオラムセンシングによって制御されている。枯草菌のコンピテンスの獲得を引き起こすペプチド性フェロモン(ComXフェロモン)のトリプトファン(Trp)残基は翻訳後修飾によってイソプレノイド(IPN)化されていると推定されていた。我々は正確なComXフェロモンの化学構造および翻訳後修飾の様式を明らかにすることを目的として、枯草菌RO-E-2株由来のComX_<RO-E-2>フェロモンについて本研究を展開した。ComX_<RO-E-2>フェロモンの化学構造は,Trp残基のインドール環の3位にゲラニル基が結合し、さらに新たに5員環を形成するという大変ユニークな化学構造であることを明らかにした。翻訳後修飾によるIPN化としてはシステイン残基に次ぐ2残基目、Trp残基上での翻訳後修飾としては5種類目の報告例である。このIPN化は疎水性を増大させるだけではなく、プロリン様の5員環を形成することから活性発現に重要なペプチドの3次元構造の変化を引き起こしていると考えられる。このことは未修飾のペプチドはもとより、別途合成した修飾Trp残基の立体異性体や、Trp残基のインドール環の各位にゲラニル基を付加させた類縁体では全く生物活性を示さないことからも強く示唆される。システイン残基のIPN化のように,Trp残基の場合も生物に普遍的な翻訳後修飾ではないかと期待される。
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