サイトキサゾンは、放線菌(Streptomyces sp.)から単離され、Th2細胞伝達の選択的抑制作用により、アレルギー性鼻炎等の治療に期待される化合物である。オキサゾリジノン環を中心とした、その単純な構造にも関わらず、特に光学活性体の大量合成法はこれまで未だ確立されていない。今回、天然から大量に供給可能なp-メトキシ桂皮アルコールから出発するラセミ体の大量合成法(5段階、総収率51%)を開発した。鍵段階は、アセトニトリルと過酸化水素から生じるイミノヒドロペルオキシドを用いたエポキシ化に際しアジ化ナトリウムを共存させ、不安定なエポキシドを単離することなく開環する、新しいアジドヒドロキシル化反応である。本合成では保護基を一切用いず、しかも、全工程が含水溶媒中で行われ、系外からの湿気混入を気にする必要がないという点が大きな特徴である。 本合成では、N-カルバミルアミノアルコールをニトロソ化し、効率よくオキサゾリジノンへと閉環する反応を活用したが、さらに、ジオールをアルキルカルバミン酸モノエステルとした化合物をニトロソ化すると、閉環に伴いジアゾエタンが発生することに着目した。ピナコール由来の出発原料に対し、亜硝酸t-ブチルを作用させ系中で発生したN-ニトロソ体を単離することなく用い、各種カルボン酸を温和な条件下簡便、かつ非常に高い収率にてエチルエステル化することに成功した。
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