研究概要 |
2,2-ジ置換環状ジケトン類の酵母還元による非対称化は、光学活性ヒドロキシケトンの調製法として有用である。しかし、菌体内に含まれる複数の還元酵素がそれぞれ相反する立体選択性を示すと、生成物はsyn体とanti体のジアステレオマー混合物になり、両者の分離は非常に困難である。もし、環状ジケトンの2位に、遠隔位にカルボニル基を有する側鎖"trapping arm"を導入し、生成物のうちsyn体にのみ分子内ヘミアセタール環を形成させれば、両ジアステレオマーを容易に分離できる可能性がある。 側鎖にイソプロピル基を有するトリケトンを合成、このものを基質として、当研究室で開発された酵母の一種Torulaspora delbrueckii NBRC 10921による酵母還元を行なったところ、還元生成物はジアステレオマー混合物になった。このとき、syn体はそのほとんどが環状ヘミアセタールとして存在しており、一方anti体は鎖状ヒドロキシケトンと環状ヘミアセタールとの約1:0.7の平衡混合物であったが、狙い通りクロマトグラフィーによって両ジアステレオマーを容易に分離できた。 一方、同じ基質に対して他種の酵母Candida floricola IAM 13115を用いて同様の還元反応を行なった場合、今度は四級不斉中心に関し単一のジアステレオマー混合物が生成し、上に示すようなanti-Prelog則に従うジアステレオマーも得られてきたが、この場合も両者の分離は容易であった。
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