研究概要 |
糖タンパク質上の糖鎖は、細胞の増殖、分化、ガン化など、生命現象の多くの局面で重要な役割を担っている。しかし、どのような糖鎖構造が糖タンパク質の活性発現に必須であるのか、それはなぜか、といった分子レベルでの糖鎖機能の理解は、なかなか進まない。その大きな原因の一つが、糖鎖構造のミクロ不均一性の問題にある。特に、ムチンなど多くの糖鎖結合部位を持つタンパク質の場合には、分子間での不均一性のみならず,同じ分子内の異なった糖鎖結合部位間における不均一性もあり、その機能の解明を一層困難にしている。 本研究では、ムチンなど分子内に多様性のある糖鎖を持つ糖タンパク質の構造、機能を解明する目的で,糖鎖結合部位ごとに異なった糖鎖を自在に構築する基盤技術を確立する目的で行っている.本年度は、O-結合型コア8型糖鎖構造を持つアミノ酸の合成と、それを用いた気道ムチンMUC5ACの繰り返し単位の合成を行った。コア8型糖鎖を持っアミノ酸は、これまで筆者らのグループで確立してきたベンジル保護を持つ糖鎖のグリコシル化により調製した。この糖アミノ酸を固相合成途上、MUC5ACの繰り返し単位(8アミノ酸残基)中の2カ所に導入することにより、コア8糖鎖を2つ持つ糖ペプチド樹脂を得た。ペプチド部分、糖鎖水酸基をそれぞれ脱保護した後、高速液体クロマトグラフィーによる精製を行い、目的とする糖ペプチドを得た。コア8型糖鎖を持つペプチドは、これが初めての合成例である。今回の合成では、コア8糖鎖の機能を知るために同じ糖鎖を2つペプチド鎖に導入した。しかし、筆者らのグループでは、これまでに多くのコア構造の合成法を確立しており、この合成法の確立によって、分子内に異なる糖鎖構造を持つペプチドを合成するための基盤技術を確立することができた。
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