研究概要 |
糖鎖は、細胞の増殖、分化等、生命現象の多くの局面で重要な役割を担っている。しかし、どのような糖鎖構造が糖タンパク質の活性発現に必須であるのかといった分子レベルでの糖鎖機能の理解は進んでいない。その原因の一つが、糖鎖構造のミクロ不均一性の問題にある。特に、ムチンなど多くの糖鎖を持つタンパク質では、分子間での不均一性のみならず,分子内の糖鎖結合部位間でも構造が異なり、その機能解明を一層困難にしている。 本研究では、分子内に多様性のある糖鎖を持つ糖タンパク質の機能を解明する目的で,糖鎖結合部位ごとに異なった糖鎖を構築する方法を確立する目的で行った.まず、コア8型糖鎖を持つSer、Thrの合成と、それを用いた気道ムチンMUC5ACの繰り返し単位の合成を行った。ついで、ロイコシアリンの部分配列を例として、分子内にシアル酸の結合位置が異なる2つの糖鎖を持つペプチドの合成ルートを開発した。まず、基本となるコア2型の4糖を持つSer、Thrユニットを合成した。ついで、ロイコシアリンの部分配列を2つに分割して固相法により合成し、おのおの1本の糖鎖を持つペプチドとして得た.ついで、それぞれのペプチドに異なるシアル酸転移酵素を作用させ、シアル酸を異なる位置に導入した.得られたペプチドをチオエステル法により縮合し、分子内に構造の異なる糖鎖を持つペプチドの合成を得た.さらに、ムチンの機能解析を推進する目的で、MUC2のタンデムリピート領域の合成法を開発した.まず、繰り返し単位となる23残基のアミノ酸配列中に7つのGalNAcを持つペプチドチオエステルを固相法により合成した.それらを順次6回繰り返しチオエステル法により縮合することによりGalNAcを42個持つ141アミノ酸からなる糖タンパク質の合成に成功した。これは、現在世界最大の合成糖タンパク質である。以上のように、多様な糖鎖構造を持つタンパク質の機能解明を推進するための基盤技術を確立した。
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