研究概要 |
キメラマウスの作成までは成功していたので,研究を開始するまでに内因性神経毒であるキノリン酸(QA)を代謝する唯一の酵素であるQuinolinate phosphoribosyltransferaseをノックアウトしたマウスが完成する予定であった.しかし,F_0マウスが生まれてこなかった.QAは胎生期において致死性因子の可能性が示唆された.QAの生成を抑制した飼料を投与するなど工夫をしているが,平成17年度終了時点においても,生まれてこなかった.そこで,その間,QAを高める薬剤あるいは出発物質となるトリプトファン(Trp)を過剰に投与して,体内のQAを高めた時の代謝についてTrp代謝が詳細に調べられているラットを用いて調べた.アミノカルボキシムコン酸セミアルデヒド脱炭酸酵素(ACMSD)を阻害するピラジンアミドおよびジエチルヘキシルフタル酸エステルを食餌中に添加し,さらに腎機能を低下させるAdenineを添加することによって,ACMSDの阻害により増加したQAを体内に蓄積させることで,異常行動などの身体的影響が起こるかを調べた.これらの添加により,QAの産生は著しく増大したが,痙攣などの異常行動や身体的影響は見られなかった.次に,ラットのTrp代謝能力をみるために,Trp-QA代謝の中間代謝産物量の変動を調べた.5%Trp添加食でも十分にTrpを3-ヒドロキシアンスラニル酸にまで代謝できた.QAの産生は,2%Trp添加食まではTrp摂取量に応じて増大したが,2%と5%食でほぼ同じであった.このことは,3-HA→QA反応は2%食のTrp摂取で飽和に達していると考えられた.結論として,肝臓で生成したQAは脳内に取り込まれないようにする防御機構の存在が示唆された.したがって,脳内にQAが1000倍以上にも増大し,疾病が発症する時には,この防御機構の破壊が根本的な原因であると思われた.
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