「やまびこ」は「音の反響現象」であり、身近に体験することが出来る。その原理は、魚群探知機や超音波診断装置などに応用されており、現在では完全に解明された現象となっている。しかし、江戸時代までは「やまびこ」は妖怪の仕業として認識されていた。妖怪の現れる時間・状況など当時の体験者の主観が文献中に残されているが、このことを科学的に解明した例はない。そのため、「やまびこ」がどんな音で発生しやすく、いつ大きく返ってくるかなど、未知の部分が多い。そこで本研究では、1年間における「やまびこ」の発生頻度や大きさ(音圧)の関係、さらに気象要因との関係を重回帰分析により把握することを目的とした。調査地は、月山ダム付近にある「くわだいさくら公園」である。2004年12月から2005年11月にかけて毎月1回の定点調査を行った。2台のノートパソコンをそれぞれデジタル低周波発振機、デジタル録音機として用い、公園から南200°方向の谷間に向けて音の発振・録音を行った。発振音には110Hz〜14080Hzの8オクターブの音を用い、音量は最大とした。録音された「やまびこ」について、各月の発生頻度と音圧差の比較を行った。音圧差とは、「やまびこ」の音圧から発振音の最大音圧を引いた値である。調査の結果、1年間で「やまびこ」の発生頻度が最も多い月は7月であり、次に3月・10月であった。周波数毎にみると、1年間では880Hzの「やまびこ」がよくみられた。「やまびこ」の音圧差を比較したところ、1年間で音圧差に差がみられた周波数は880Hzのみであり、6・7月よりも3・4・11月の方が大きかった。重回帰分析を行った結果、特に880Hzで気圧・気温・風速のいずれか複数の組み合わせの時に、「やまびこ」の大きさと負の相関がみられた。以上より、1年間において、「やまびこ」は880Hzでよく発生し、3・4・11月に大きいことが把握できた。また、気圧・気温・風速が小さい時に「やまびこ」が大きくなる可能性が高いことが示唆された。
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