中国黄土高原における砂漠化地域においては、植林された樹木が数年間の良好な生長ののち、先枯れ、枝枯れを繰り返して樹高成長が停止してしまう「小老樹」の発生がしばしばみられる。この「小老樹」は、森林発達にともなう土壌水分の消費によって、樹体に水ストレスが生じていることが原因であると推測される。そこで、枝枯れ発生がみられているハリエンジュ(Robinia pseudoacacia)と枝枯れの発生がみられないアブラマツ(Pinus tabulaeformis)を同一地域から採集し、それらの年輪中に含まれるセルロースの炭素同位体比を調べた。 その結果、ハリエンジュはアブラマツに比べて年輪幅が大きく、成長が早いものの、光合成時の気孔開度が大きく、水利用効率が低い樹種であることが推定された。このことから、ハリエンジュは成長にともなって蒸散による水消費が大きくなるため、乾燥地における植林には限界があることが推測された。 これらの樹種の炭素同位体比と各年の気象条件の対応について調べた結果、早材の同位体比は前年および当年の気温および降水量、晩材の同位体比は主として当年の気温および降水量と高い相関が得られた。また、ハリエンジュは気象条件に対する同位体比の反応が小さく、気孔の感度が低いことが推測され、逆にアブラマツは、気象条件に応じて同位体比が大きく変動していることから、気温や降水量などの水分条件に気孔が敏感に反応する樹種であることが推測された。 このほか、現地で非常に生育のよい低木であるグミ科のサキョク(沙棘Hippophe rhamnoides)は、水ポテンシャルの目中変化が小さく、蒸散量が少ないことが推測されていたが、安定同位体からみても水利用効率が高いことが確かめられた。
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