光条件を相対照度100%区、10%区および3%区で約2年間育てたアラカシとヒサカキの苗木を用いて、異なる光条件に対していかにして樹木が順応しているのかを、木部構造や通水特性、さらに気孔の開閉調節の面から解析した。 両樹種ともに明るい処理区ほど木部の水ポテンシャルの低下に伴う水分通導度の低下の程度が低い傾向が認められた。このキャビテーションに対する感受性の違いを木部構造より検討した結果、アラカシでは全ての道管のサイズには差が認められなかった。しかし、機能している道管と閉塞している道管を分けた頻度分布から、100%区と10%区では小径の道管を使用し、キャビテーション発生のリスクを低く抑える傾向が見られた。一方、3%区ではより大径の道管を使用していた。また、100%区のアラカシでは日中に気孔コンダクタンスを低下させており、1日あたりの蒸散量が暗い処理区と同程度に低かった。ヒサカキの100%区においては気孔を終日閉じ気味にしており、1日あたりの蒸散量は暗い処理区と同程度に低い値を示した。10%区および3%区においては、両樹種ともに午前中に気孔を最大に開き、日没にかけて低下させることで日中の乾燥を回避し、失水を抑えていた。また、アラカシは処理区間で個体あたりの総葉面積に差が見られなかったが、ヒサカキにおいては100%区において総葉面積が他の処理区よりも有意に小さい傾向があった。 以上より、アラカシは明るい光条件下では蒸散要求性が大きいことから、キャビテーションリスクの小さな小径の道管を用いるとともに日中の気孔調節を行い失水を制御していた。逆に、暗い光条件下では蒸散要求性が小さいことから、大径の道管を用いることで光環境に順応していることが示唆された。ヒサカキの明るい処理区では、気孔調節に加え、個体の葉量を減らし失水を抑えることで光環境に順応していることが示唆された。
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