(1)オノエヤナギ、シラカンバ、ミズナラ、エゾヤマザクラについて、分化終了にともなう木部の脱水過程を低温走査電子顕微鏡(Cryo-SEM)観察により検討した。その結果、すべての木部繊維が分化終了時に脱水されるわけではないことが明らかになった。木部繊維の種類によって分化後の水の挙動が異なり、支持機能に特化した木部繊維(真正木繊維など)は分化終了後すぐに脱水されるのに対して、通水要素的な木部繊維(周囲仮道管や典型的な繊維状仮道管)は分化後すぐには脱水されず、少なくとも5〜8年間にわたって水を保持しているのが確認された。 (2)FE-SEMにより上記4樹種について木部繊維間の壁孔壁の空隙構造を調べた。分化後に脱水されるタイプの木部繊維間の壁孔壁は幅が1μmを超える空隙を含み、かなり粗な構造をもつのに対して、分化後も脱水されないタイプの木部繊維間の壁孔壁はミクロフィブリルが密に充填され、道管相互の壁孔壁に類似した、密な構造を有していた。これらの結果から、木部繊維間の壁孔壁の粗密の違いが分化後に脱水を引き起こすか否かを決定づける条件の一つになっていることが示唆された。 (3)木部繊維の脱水を引き起こす駆動力を検討するために、分化後間もない木部繊維組織の気体組成の分析を試みた。この分析については、未だ予備実験段階で、十分な成果は得られていない。ガスクロマトグラフィーにより分析する環境を整えることができたが、試料の採取方法が難しく、方法上の検討の余地を残している。
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