本年度の研究では、おもに樹幹内の気体組成の分析をおこなった。また前年度に続いて、分化帯から分化後にかけての水分分布、および木部繊維間の壁孔壁の微細構造についても、対象樹種を広げて解析をおこなった。得られた成果の概要は以下のとおりである。 (1)辺材外層部の気体組成 increment puncherとガスシリンジを使い、樹幹の表面化から深さ0.5-2cm、直径3mmの孔をあけ、辺材外層部の気体を採取する方法を考案した。これにより樹幹内の気体組成を分析することができるようになったのだが、実験を重ねるうちに、気体が漏れない仕様になっているはずのガスタイトシリンジからリークが発見された。このような問題に直面し、研究期間内に再現性よく高精度の結果を得るには到らなかったものの、少なくとも分化後間もない辺材外層では、大気よりも二酸化炭素濃度が桁違いに高いことは明らかであった。分化完了時、細胞死間際の代謝に由来する呼気が繊維細胞の脱水に関与する可能性も示唆され、興味深い。今後、気体試料の採取〜機器分析の過程を改良し、このテーマに継続して取り組むつもりである。 (2)木部繊維での水の存否と木部繊維間の壁孔壁 樹種を広げて解析を続けた結果、ナナカマドでは分化後もほぼすべての木部繊維が水を保持し続けることが明らかになった。さらに、ナナカマドの木部繊維間の壁孔壁は、通水に専業化した道管相互の壁孔壁と同じように密な構造をもつことが確認された。木部繊維間の壁孔壁の粗密の程度が分化後も水を保持し続けるかどうかを決める要素であるという、前年度に得られた見解が裏付けられたことから、これらの成果については植物学の国際誌に発表した。
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