担子菌類(きのこの仲間)のリグニン分解能力を利用して木質バイオマスの変換利用の際に障害となる高分子リグニンを分解除去する系は、常温常圧で反応が進み環境へのインパクトが少ない点が特徴である。担子菌の中でも白色腐朽菌類は、一般に菌体外に分泌するラッカーゼやペルオキシダーゼによって初発される連鎖的ラジカル反応によって、高分子リグニンの低分子化を促し、これによって生成する多様な芳香族有機化合物を分解・資化するとされている。本研究では、研究代表者が自ら開発を行ったリグニン分解性担子菌Pleurotus ostreatus(ヒラタケ)への遺伝子導入システムを利用して、木材糖化能が高度に高められた「遺伝子組換え担子菌」を作製する目的で、これまでに高分子リグニンをも直接分解することが可能な多機能型のマンガンペルオキシダーゼを発現するための組換えmnp2遺伝子を形質転換導入して遺伝子組換え体を単離に成功している。 本年度は、まず組換え体においてリグニン分解系が強化されていることを確認する目的で、多機能型ペルオキシダーゼの高発現を確認し、続いて難分解性環境汚染物質であるベンゾaピレンの分解を行って、野生型の数倍の除去能を獲得していることを明らかにした。さらに様々な培養条件で、多機能型ペルオキシダーゼの生産性についてスクリーニングしたところ、野生型がMnP2を生産しない条件下でも、著量のMnP2を発現する条件を振蕩培養を用いた系で確立した。このことは、ヒラタケが本来持っている野生型の酵素の発現が無い条件下で、組換え体のみを大量に調整できる培養条件を見つけたことを意味し、多機能型ペルオキシダーゼの部位特異的変異導入による構造機能相関解析を可能にするものである。 一方、担子菌類における遺伝子ターゲッティング系の開発を目指して、相同組換えの頻度に影響を与えるKu70遺伝子のクローニングに着手し、他の生物旬の保存配列から設計したプライマーでヒラタケから本遺伝子の一部配列をクローン化することに成功した。この配列は担子菌類から初めての、Ku70のクローニングを意味し、現在引き続き全長配列の取得を試みている。
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