研究概要 |
ダイオキシン類や環境ホルモン等による土壌汚染などが大きな社会問題となっている。しかし、未だ実用的な浄化法は見出されていない。本研究では、天然から選抜したダイオキシン分解菌から抽出した粗酵素をゲル包括剤で固定化した固定化酵素および粗酵素を用いて、環境中のダイオキシン類、環境ホルモン、残留農薬を分解してこれらにより汚染された土壌などをその現場での処理で浄化する方法を研究開発することを試みた。 (1)ダイオキシン分解菌からの固定化酵素、粗酵素によるダイオキシン類等の分解:粗酵素を固定化する際のゲル包括剤の濃度が分解に及ぼす影響を調べ、最適ゲル濃度を明らかにした。そして、この条件により粗酵素をゲル包括剤で固定化して固定化酵素を調整した。この酵素を用いて、土壌中の高濃度のダイオキシン類[TCB(コプラナーPCBの一種)]を分解浄化できる方法を開発した。また、環境ホルモン(DDT)、残留農薬(リンダン)に汚染された土壌もこの処理法により、効率的に分解浄化できることを見出した[DDT(65%、30日処理)、リンダン(45%、30日処理)]。さらに、粗酵素を用いてダイオキシン類(2,8-DCDD,2,4,8-TCDF,TCB)や環境ホルモン(DDT)を分解できる方法も見出した。 (2)固定化酵素、粗酵素を用いたバイオリアクターによるダイオキシン類等の分解:固定化酵素を用いたバイオリアクターにより、ダイオキシン類(TCB,2,8-DCDD,)を短時間で分解浄できることを見出すと共に、その分解条件を検討し、ダイオキシン類などに汚染された土壌を固定化酵素を用いたバイオリアクターで浄化できる方法を開発した(72時間処理、分解率65%)。[リアクター処理法は、土壌処理法に比べ分解速度が5倍速かった]。また、ダイオキシン汚染土壌もこのリアクター処理法により、短時間(72時間)処理で分解浄化できた[ダイオキシン類分解率:60%分解(TEQ換算)]。 (3)固定化酵素、粗酵素および分解菌を用いた焼却灰中のダイオキシン類の分解:焼却灰はアルカリ性のため、粗酵素が働く至適pH(pH4.5)と異なるため、酵素によりダイオキシン類を分解できるが(約30%)、多量の粗酵素を必要とした。また、固定化酵素処理では焼却灰中の無機塩類の影響のため、ダイオキシン類は殆ど分解されなかった。しかし、この灰に土壌を加えダイオキシン分解菌を分解剤として用いる浄化法を見出した。 (4)固定化酵素の包括剤及び包括法の検討:3種の包括剤(アルギン酸、κ-及びι-カラギーナン)の酵素保持能について検討したが、酵素保持能はアルギン酸が最も優れていた。リアクター処理法の性能を向上させるため、酵素賦活化剤をも含有した二重膜を持つ固定化酵素を作製することを試みた。この固定化酵素によるダイオキシン類などの分解率は、一重膜のそれよりもひくいものの大差はなかった。また、この固定化酵素は土壌中のダイオキシン類や環境ホルモンも分解することができた。しかし、分解率が低いので分解率を向上させることが今後の課題と考えられた。
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