北部北太平洋生態系で重要な動物プランクトンであるツノナシオキアミEuphausia pacificaは、従来植食性が強いと考えられていたが、著者らの研究により動物性餌料に対する依存度も高いことが指摘された。本研究はその仮説を検証し、三陸沖海洋生態系において本種をめぐる食物連鎖の再構築を行った。無殻繊毛虫を本種に与えたところ、摂食速度は本種1個体あたり1.01-3.24μgC/hであった。この最大値は一日あたり本種の体炭素の2.3%に相当しており、繊毛虫だけで本種の食物要求を満たすことができる。本種はバクテリアを直接食べることはできないが、繊毛虫を摂食することから、本種が微生物連鎖と生食食物連鎖を結ぶ役割を果たしていることを示唆するものである。 胃内容物観察に基づく本種の食性を検証するため、本種の安定同位体比を測定した。その結果、E.pacficaのδ^<15>Nはネット動物プランクトンのδ^<15>Nよりも少し高いだけであり、POMのδ^<15>Nとの差の方が大きく、2‰程度であることから、POMの方が餌として重要であることが分がった。また、本種のδ^<15>Nがネット動物プランクトンのδ^<15>Nよりも常に高い値を示したことから、本種はネット動物プランクトンよりも高い食段階に位置していることが示唆された。今後POMの中身を吟味する必要がある。 オキアミ類は一生の間、定期的に脱皮を続け、本種もほぼ5日ごとに脱皮する。これまで未解明だった本種における脱皮と昼夜鉛直移動、生殖周期、摂食活動との関係を調査した。昼夜鉛直移動において、脱皮個体の夜間の表層への移動は制限されていた。脱皮個体の割合は成熟雌で最も小さかったことから、成熟雌では脱皮間隔が長くなっていることが考えられる。非脱皮個体では摂食活動は夜間に活発に、日中は不活発になる摂食リズムが見られたが、脱皮個体の摂食活動は昼夜とも不活発だった。
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