福島県相馬市地先海域におけるホッキガイの食物供給について、これまでに、(1)本種は、海底の上方の数cmのごく狭い範囲に分布する粒状有機物を主な食物としていること、(2)この食物供給層に水柱の上方層で生産された浮遊性微細藻類が混ざり込むことは少なく、その結果、ホッキガイが水柱中の一次生産を直接利用することは稀であること、が明らかにされてきた。これは、埋在性二枚貝類の食物は上方層で生産された微細藻類が沈降したものが主体となっているという、従来考えられてきたものとは異なることを示している。 本研究では、福島県相馬市地先および宮城県山元町地先を対象として、二枚貝類の胃内容物および環境中の微細藻類組成を比較観察し、また、海水中、底質中の粒状有機物および二枚貝類の閉殻筋の炭素・窒素安定同位体比を測定した。両海域とも、ホッキガイ胃内容物中の微細藻類組成では底生性微細藻類が優占し、底質中のそれと類似していたが、水柱各層のそれとは異なっていた。同所的に生息する他種二枚貝類の胃内容物中の微細藻類組成は、ホッキガイと同じ特徴を示した。また、上下混合が大きいと考えられる砕波帯付近においても、海水中の微細藻類組成と底質中のそれとは異なっており、コタマガイ胃内容物中の微細藻類組成は底質中のそれと強い類似を示した。二枚貝類体組織の炭素安定同位体比は約-16‰で、水柱の懸濁粒状有機物の約-23‰とは大きな差がみられた。 砕波帯付近を含め浅海域では、微細藻類組成が水柱の上方層とは異なる層が海底近傍に存在し、二枚貝類は種に関係なくこの層を食物供給層としている。これらの二枚貝類が水柱の上方層の微細藻類を食物として摂取することは極めて少ない。安定同位体比の分析結果も二枚貝類と水柱の上方層の一次生産とのつながりが希薄であることを示している。沿岸浅海域の砂質域では、このような食物供給機構は埋在性二枚貝類にとって極めて普遍的である。
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