研究概要 |
食物供給機構を解明することは、生物生産の仕組みを解明し、環境収容力を推定する上で最も重要な事項のひとつである。福島県相馬市地先海域のホッキガイ漁場における生産系については、(1)生息する埋在性二枚貝類のほとんどすべての種が、その食物供給を海底から数cmまでの海底近傍の限られた範囲に依存していること,(2)この食物供給層には、水柱の上方層で増殖した浮遊性微細藻類が混ざり込むことが少ないこと、(3)沿岸浅海域の砂質域においては、このような食物供給機構が極めて普遍的であること、などが明らかになってきた。これは、海底近傍の一次生産系が、底生生物群集の食物供給源として極めて大きな比重をしめており、底生生物群集の生物生産や環境収容力を強く規定する要因になっていることを示している。 本研究では、福島県相馬市地先海域を対象として、海底近傍層における一次生産系の底生生物の食物供給層としての特性を明らかにすることを目的として、水柱の各層における微細藻類と海底近傍層のそれについて、構成種群、分布密度等の季節的変化の違いについて検討した。 水柱の優占種群は季節的に移り変わっていき、夏季に優占したThalassionema spp.やAsterionella spp.のように短期間で交替する種群がみられた。各月の水柱の微細藻類組成には鉛直的な違いはみられず、すべての層で浮遊性珪藻類が優占していた。しかし、種群別の構成割合は水深別の層間で異なり、水柱の下層ほど底生性珪藻類の割合が高い傾向が見られた。海底近傍層の微細藻類組成は水柱のそれとは異なり、全体として底生性珪藻類が優占していた。特にNitzsha単体性種、Navicula spp.,Melosira spp.,Cocconeis spp.,Coscinodiscus spp.の5属が期間を通じて多く、構成種群の変化が小さいという特徴を示した。
|