魚類の卵や胚を凍結保存する技法は現在までに確立していないため、魚類の遺伝子資源を長期間保存するためには、個体を継続的に飼育する以外方法が無かった。そこで、申請者は卵と精子の前駆細胞である始原生殖細胞に着目した。この始原生殖細胞は異種宿主に移植することで、宿主生殖腺内で成熟し、卵や精子を生産する。したがって、この細胞を凍結保存する技術が開発されれば、卵と精子の両者の凍結保存と同一の意義があると考え、本研究では始原生殖細胞の凍結保存技術の開発を目的とした。 本年度な始原生殖細胞を凍結する際の凍結保護剤の選択、およびその至適濃度の探索を行った。具体的にはジメチルサルフオキシド、プロパンジオール、グリセロールおよびエチレングリコールの4種の凍結保護活性を用いて始原生殖細胞の緩慢凍結を行い、24時間後に急速解凍し、得られた細胞の生残率を求めた。その結果、エチレングリコールが最も高い生残率を示し、その至適濃度は1.8Mであった。さらに、解凍後の始原生殖細胞を孵化稚魚の腹腔内に移植するとこれらドナー細胞は宿主生殖腺に自発的に移動し、そこに取り込まれ、増殖、分化することを確認した。 一方、キメラRNAを用いた始原生殖細胞の可視化技法については、ニジマスのvasa3-非翻訳領域を用いたGFP-RNAを受精卵にマイクロインジェクションすることで、ヤマメ、イワナ、ブラウントラウト、さらにはゼブラフィッシュの始原生殖細胞も可視化することに成功した。さらに、ゼブラフィッシュおよびニベ由来のvasa3-非翻訳領域を用いた場合もニジマスの始原生殖細胞を可視化可能であることを明らかにした。これらの結果は本キメラRNAを用いた方法が多くの魚類に応用可能であることを示しており、遺伝子組換え技術を用いずに始原生殖細胞の操作を可能にする技法として期待される。
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