動物の個体当り酸素消費量Mと体重Wの間にはM=aW^bのアロメトリーの関係がある。一般に単位体重当り酸素消費量M/WはWの増大に伴い低下するので、M/W=aW^<b-1>においてb-1<0である。この関係には種間の関係(代謝量の系統発生)と種内の関係(代謝量の個体発生)があり、魚類については種内の関係について研究されてきた。しかし魚類における代謝量の個体発生については、魚が非常に小さい体サイズで生まれることも関係して、よくわかっていなかった。本研究は魚類の代謝量の個体発生がM/W=a_iW^<b-1>の関係で記述されるのではないかという仮説を検証することを目的とする。すなわち、b-1がマイナスのまま、ある発育段階に達するとa_iの値が急上昇するという仮説である。これまでトラフグTakifugu rubripesをモデル動物としてこの問題を検討し、体重が0.01gと0.15g付近でa_iが急上昇するという結論であった。しかし、この研究期間中にこの問題をトラフグで再検討した結果、この関係は4つのM/W=a_iW^<b-1>で表された。この関係は体重0.00083-0.0016gでM/W=3.53W^<-0.18>、0.002-0.0084gでM/W=3.91W^<-0.18>、0.0083-0.12gでM/W=5.24W^<-0.18>、0.13-3gでM/W=7.29W^<-0.18>だった。すなわち、0.01gと0.15g付近に加え、0.002g付近でもa_iが急上昇した。これらの3回のa_iの急上昇に対応して、激しい共食いによる高死亡率のピークが3回あった。トラフグで得られた0.002、0.01、0.15g付近でa_iが急上昇するという結果に着目し、他の魚種で検討したところ、この研究期間中にヒラメParalichthys olivaceusとマサバScomber japonicusでも同様の体重付近でa_iの急上昇が認められた。代謝量の個体発生のこのような解釈は文献的にも可能で、トラフグで認められた結果は真骨魚類に広く認められる可能性がある。今後は魚種を広げてa_iの上昇の可能性を検討すると同時に、トラフグやヒラメをモデル動物として、なぜどのようにa_iが上昇するのかというメカニズムを解明し、a_iが上昇することの生態学的意義を探っていきたい。
|