研究概要 |
今日,魚油を含む油脂・脂質の研究では,その抽出から目的成分の分離・精製,誘導体の調製,そしてクロマトグラフィーによる成分分析に至るまで,ほとんどすべての過程で大量の有機溶剤が消費されている.あらゆる有機溶剤は人体に有害であるばかりでなく,その外界への排出は深刻な環境汚染を引き起こす.このため,実験の全過程で有機溶剤の使用を大幅に減少させることが,国内外において緊急の課題となっている.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は今日,脂質化学の研究において必要不可欠の分析手段として広く利用されているが,現在の内径3〜4.6mmのカラムを使用する方法では,有機溶剤(移動相)を大量に消費することは避けられない.本研究は,内径0.1〜0.3mmのキャピラリーカラムを用いて分析法の微小化を図り,分離を損なうことなく有機溶剤の使用量を激減させる新しい油脂分析システムを構築しようとするものである.本年度は,ODSカラム(内径0.1mm,長さ15cm),ミクロセル(0.05μL)及び微量インジェクター(注入量0.2μL)を使用して逆相キャピラリーHPLC分析を実施した.試料には魚油由来の高度不飽和脂肪酸を含むジアシルグリセロールのUV誘導体(3,5-ジニトロフェニルウレタン)を用いた.アセトニトリル(100%)を移動相として,室温で5μL/minの流量で分析した結果,炭素数と不飽和度の異なる種々の分子種について,従来法に匹敵する良好な分離が短時間で得られた.1回の分析に使用した移動相量は約300μLに過ぎなかった。これは従来法の約200分の1の量であり,有機溶剤の使用量を激減させる所期の目的をほぼ達成することができた.今後,質量分析法を併用して(キャピラリーHPLC/ESI-MS),微量成分を含めてより正確な成分同定を試みる予定である.本研究で確立した方法は環境低負荷型水産油脂分析法として,種々の試料の分子種分析に威力を発揮するものと考えられる.
|