本研究の目的は、輸出国家貿易と輸出規律の実態および制度を、ニュージーランド(NZ)の酪農を事例として、実証的に明らかにし、可能な限り日本国内で農業生産を確保できる体制に資するWTO体制のあり方に示唆を与えることにある。具体的には、当該産業の市場構造、市場行動ならびに市場成果として分析する産業組織論のフレームワークに依拠して分析を試みる。本年度は、NZの農業・酪農の市場構造を、文献サーベイ等によって整理すると共に、市場構造に関連する統計等を収集整理し、解析を試みた。その解析結果は以下1と2の通りである。1.近年におけるNZ農業の構造変化をNZ農業センサスによって分析した結果、(1)土地利用では森林面積が増加する一方、牧草面積が減少傾向にある点、(2)家畜頭数では羊頭数が減少する一方、乳牛頭数が増加し、特に南島で乳牛頭数が急増する傾向にある点などが明らかとなった。2.NZの農業・酪農業における市場構造を分析した結果、(1)NZでは主要な農産物に対し、法令などに基づき生産者ボードと呼ばれる団体が組織されている点、(2)NZでは生乳生産を酪農家が、生乳の加工処理を酪農家出資の酪農協同組合(酪農協)が、乳製品の輸出販売を酪農協出資の生産者ボードが独占的に担うという市場構造が形成されてきたが、酪農協合併の進展などを背景とし2001年にNZの二大酪農協と生産者ボードが合併した巨大酪農協が発足した点、(3)この巨大酪農協発足に伴い生産者ボードが有していた輸出独占権は原則として撤廃された点、(4)とはいえ、NZにとって高い利益が見込める指定市場(関税割当等を課している国向けに輸出される乳製品市場)の輸出は当面の間、主としてこの巨大酪農協が維持する点などが明らかとなった。
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