研究概要 |
本研究ではEU諸国における農村振興政策の現段階やわが国の農村振興にかかる施策の設計や実施のあり方を比較を通じて特徴づけ,新たに構築すべき農村制度を考案する上で,検討の素材と視点を示そうと試みた。 第1はEU諸国間の比較検討である。固有の地方制度のもとに農村振興政策の受け皿として分権的な企画・立案・実施の体制の構築が進められているフランスとドイツを取り上げた。。フランスでは零細な基礎自治体が連合しながら,生活圏や就業圏の範域において形成するコミューン共同体や広域圏「ペイ」の制度が定着した実態について明らかにした。ドイツでは北部地方のLEADER+事業を事例に地域組織の連携について明らかにした。複数の市町村からなる「地域」のアイデンティティの確認、住民間の関心の共有化などの効果が上がっている一方、行政上の手続きの煩雑さが問題となっている。 第2は日欧の動向の比較検討である。上のドイツLEADER+事業と我が国の中山間直接支払制度を比較分析の素材とし、政策の対象として「まなざし」が向けられる「地域」から,主体としての「地域」に変わりつつある現状を捉えた。 第3はわが国の農村振興政策の一手法である都市農村交流に関する政策展開と手法の特徴付けを行った。都市農村交流は、都市住民の余暇活動の重視や旅行先としての農村の選択と、農村側における農村経済の多角化と地域活性化の目的が重なった90年代からの現象であり、旧来型の外発的な開発政策を乗り越えて、地域資源を活用した地元事業者の手による内発性を特徴とする。 以上を通じて,わが国では農村における小規模な市町村の合併の増加が見込まれ,農村の市町村のスケールメリットが追及される一方で,わが国の農業・農村政策の推進においても,農業集落をはじめとする市町村以下の多様な地域集団の存立の必要性を比較の観点から明示した。
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