19年度は、過去3年間に調査を行ってきた山東省、遼寧省、湖北省で収集された調査結果と農家ミクロデータを整理し、計量経済学的な分析を行った。同時に、補足調査として北京市において7日間、研究代表者、ならびに海外共同研究者の曹力群、張暁輝、馬永良が現地に入って市場経済の発達レベルの異なる3村を選択して、総計約100件の農家に対し面接調査を行い、分析を補充した。これらの結果を、20年5月に北京市にて国際シンポジウムを開催して発表し、討論の結果を刊行物として以下の内容で取りまとめた。 中国農村では、農家はWTO体制下で市場取引に対応しなければならなくなったが、現在でも法治が不十分で市場が完全には利用できない。しかし人治としての「慣習経済」を活用することで、取引を執行させている。慣習経済は、中国農村では「贈与関係主義」ととらえられる。その特性は、(1)贈与を節約するために親密な関係を利用することが効率的であるので、人格的取引が用いられる。(2)伝統的な互恵的な農業部門では、贈与は交換的で取引も双務的であるが、階層格差の現れる非農部門では、贈与は、自己利益のため片務的な関係を作るためのシグナルとして用いられる。(3)関係主義は交渉を支持するものであるが、交渉で2位評価を用いた戦略が使われるため、効率的な競争と両立し、また効率的な贈与投資ももたらす。これらを作業仮説として、農家個票データを用いて検証を行った。その結果、(1)人格的取引が依然用いられている状況のもと、(2)贈与は農業部門では交換的に用いられ純収益と関係ないが、非農部門では贈与がシグナルとして用いられ、片務的な関係によって純収益の増加をもたらしていること、(3)関係主義が用いられている農地貸与市場においても、効率的な競争が実現されていることが実証された。
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