北米自由貿易協定(NAFTA)およびその前身である米加自由貿易協定(CUSTA)のもとで、カナダの農業経営と食品産業は大きな変貌を遂げてきた。本研究の課題は、カナダの農業・食品産業の中でも比較劣位部門である果実とワインに焦点をしぼり、NAFTAのもとでの構造的変化とその要因を明らかにすることである。平成16年度はワイン製造業を中心に研究を行った。カナダのワイン製造業は、東部のオンタリオ州ナイアガラ地域と西部のBC州オカナガン地域に集中している。国内消費量に占める輸入ワインの比率は58%(1992年)から66%(1999年)に上昇した。主な輸出国はフランス、アメリカ、イタリア、チリである。カナダのワイン製造業の競争力は弱く、輸入ものに押されている。とはいえ、国内のワイン生産は1990年から94年までいったん減少したあと、90年代後半には増加に転じた。また、輸出も少ないとはいえ、96年以降増加基調にある。ワイン製造業の雇用者は90年から94年まで減少したあと、緩やかな増加に転じた。ワイン用ブドウの栽培面積は近年増加を見ている。その要因としては、(1)ワイン用ブドウの品種更新が進んだこと、(2)VQA(Vintners Quality Alliance)というカナダ独自の品質保証制度の普及、(3)アイスワインのようなカナダ独特の生産条件を生かした商品の開発、(4)世界的にみたワイン消費量の増加、(5)観光と結びついたワイナリー訪問者の増加、があげられる。このように、90年代前半の構造調整を経て、ワイン産業は90年代後半に復調に転じ、現在でもその傾向は継続している。ワイン消費がカナダ国内でも増えていることをバックに、ワイナリーの経営改善や業界の品質保証制度普及によるものと考えられる。
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