本研究の課題は、NAFTA(北米自由貿易協定)の下でのカナダの農業とアグリビジネスの構造変化を、とくに果実とワインに焦点をあてて明らかにすることである。NAFTAとその前身であるCUSTA(米加自由貿易協定)は、FTAの嚆矢となった協定である。カナダ農業は穀物・畜産・油糧種子においては高い輸出競争力をもっているが、果実や野菜は比較劣位部門であり、CUSTAおよびNAFTAのもとで関税がなくなれば、輸入品との競合によって甚大な影響を受けると予想されてきた。FTAのもとで比較劣位部門がどのような影響を被り、構造変化がどのように起きたか、あるいはこうした変化に対する政策を検討することが本研究の課題である。 得られた結果は次のようなものである。第一に、果実部門においてはリンゴ・洋ナシなど果樹の栽培面積の継続的な後退が確認できる。他方で、液果類・ブドウの栽培面積が拡大してきたことは注目される。なかでも栽培面積の拡大が目覚しいのはブルーベリーであり、カナダは世界有数のブルーベリー輸出国になった。 第二に、ブドウを原料とするワイン産業では国内市場の拡大にともなって輸入が増えており、カナダ産ワインの自給率はやや低下している。カナダのワイン生産は1990年代前半に一時減少したが、その後は回復基調にある。その要因としては、(1)需要の多いヴィニフェラ種への品種転換、(2)原産地表示・品質保証制度の導入、(3)アイスワインなどの開発、(4)ワイナリーとツーリズムとの連携、などの点を指摘することができる。州ごとに設立されたワイン品質管理連盟(VQA)による原産地表示制度は、カナダ産の高品質ワインの販売促進に有力な手段となった。
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