研究概要 |
【新たな地区計画論に関する理論的考察】 1960年以降の農村計画学分野における地区計画論の展開を非参加型,住民参加型,住民主体型に分けて整理した。住民に対する認識が計画客体から計画主体へと移行するに従って,計画論の構成要素が次第に拡大してきたことを示すとともに,住民主体型計画論には,「問題解決学によるロジカルな計画づくりを目指す計画技術的側面」と「住民の意欲や組織的行動特性に留意した計画づくりを目指す行動科学的側面」があることを明らかにした。従来の計画論は主として計画技術的アプローチを採用しているが,今後は行動科学的アプローチも複眼的に取り入れた地域づくり型計画論の開発が必要である。 【行動科学的アプローチの意義の検証】 神戸市の里づくり計画を対象にして詳細なアンケート調査を実施し,計画づくりをめぐる住民の意識構造を解明したところ,よい計画案をつくり上げることと同様,計画づくりに対する住民の意欲向上も計画の実施を大きく左右することが明らかになった。さらに,このような意欲水準は,(1)住民の集落自治へのコミットメントの程度と(2)計画づくりに対する理解の程度に規定されており,(1)は個人の社会的信頼とも関連していることが判明した。 【地域づくり型計画論の構築】 社会的信頼に互酬性規範と社会的ネットワークを加えると,ソーシャル・キャピタル概念(SC)となる。そこで,兵庫県旧山崎町を対象に,地域づくりのパフォーマンスとSCの構成要素を解析したところ,明瞭な関係性が検出できた。よってSC水準は計画づくりを左右する地域特性の一つである。対象地区のSC水準に配慮した計画論の構築が望まれる。他方,住民の意欲は計画づくりの「参加の場」の状況から影響を受ける。そこで,ゲーミング・シミュレーションを用いたワークショップ手法を開発したが,これは計画づくりを主目的とし,意欲の開発を副次的な目的とする計画手法である。
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