研究概要 |
本研究では,高糖系温州のマルチ栽培において,連年安定・高品質果実生産を実現するため,樹体・土壌水分環境と樹体光環境を迅速に計測するシステムを開発し,両環境の制御により水分ストレスを抑制して,好適な光環境下で高品質果実生産を実現できる技術を構築することを目的として研究を実施した。土壌水分および樹体水分の計測法の開発においては,市販されているセンサを用いて炉乾燥法と併用して安価で迅速に計測できるセンサを選定した。カンキツは1個体の樹冠葉面積を計測するには,投影法が用いられるが労力と時間が必要である。PCA(プラント・キャノピー・アナライザー)のほぼ10分の1の十数万円の魚眼レンズ付きデジタルカメラを用いて,樹冠葉面積指数を高精度かつ非接触・非破壊で推定可能な技術を開発した。最新の樹木蒸散流の計測手法であるグラニエ法を用いて,白色マルチ栽培下における土壌水分およびカンキツ樹体の蒸散流計測を試みた。樹木蒸散流の測定は,グラニエ法を応用したThermal Dissipation Probe (T.D.P)を用いている。T.D.Pは熱放散センサであり,樹木の液材に埋め込まれたラインヒートソースの温度を測定するもので,蒸散流とともに上昇する液材の熱放散およびヒートソースの冷却度合いを測定しており,蒸散流速度がゼロもしくはゼロ近くになると2つのセンサ間の温度差は最大になり,蒸散流量が増加すると温度差は小さくなる。蒸散流速度は日の出後約1時間頃から高まりはじめ,日射量に追随して推移しており,日射量に大きく依存する傾向を示した。また,マルチ区の樹体は白色シートマルチにより降雨が遮断され土壌が乾燥して樹体が乾燥ストレスを受けたことにより,蒸散流速度が低下していた。この結果,グラニエ法を用いて温度差を測定することで,カンキツ樹体の蒸散流を連続かつ自動的に計測が可能であることが明らかになった。
|