研究概要 |
農業用水は,いわゆる灌漑用水としての役割だけではなく,地域住民の生活・環境に密着した地域の水としての機能も果たしている.都市化の進行によりこうした機能の喪失が危惧される中,混住化の進む岸和田市域を対象として,望ましい水環境の構築に資するため,地域や流域レベルでの水環境に対して農業基盤(特にため池)が果たしている役割を水管理面も含め把握・検討することを試みている.今年度は,昨年に引き続き,河川流量,ため池流入・流出水量,降水量,各水質などの水文諸量の観測を所定のため池流域で継続すると共に,これまでの蓄積データをもとに特に以下のような検討を行った. 1.ため池の洪水緩和機能評価:対象市域郊外の山林・農地流域からの出水モデルを作成し,流域末端に位置するため池の洪水緩和機能を実測およびシミュレーション双方から評価した.その結果,面積は小さくともため池の洪水緩和効果は十分発現・機能し,流域全体からの出水規模に対して決して無視し得るものではないことがわかった. 2.ため池による流出負荷削減効果:基本的に動水状態にある河川水が,ため池に流入し静水状態を経由することによって,流出負荷の削減が生じるかを栄養塩類を対象に検討した.その結果,少なくとも溶存態窒素についての削減効果が認められた. 3.下水道整備に伴う河川の負荷削減:混住化市域を流下する河川の流域を対象に,下水道の接続率増加に伴う河川水の汚濁改善状況(負荷の減少)を試算した.この試算から,流域全体の接続率向上のため上流域へ下水道基盤を拡大するよりも,(人口の集中している)基盤整備済み下流域での接続率を上げる方が負荷削減には効率的であることが予想された. 次年度は,データのさらなる蓄積やモデルの見直しにより,上記の成果に関わる定量的精度を高めていく予定である.
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