研究概要 |
cAMPアナログcBiMPS処理したブタ精子の運動性を観察するとともに,その精子のタンパク質を生化学的に解析することで,以下の結果を得た。 1.SYKでは,PLCγ1との結合に必要なLinker領域(Y352)のリン酸化がcAMP依存的に誘起された。 2.活性化型(pY783型)PLCγ1は,SYKの局在する頚部と鞭毛主部においてcAMP依存的に出現した。また,出現時期はSYKの活性化時期と一致した。 3.活性化型PLCγ1の出現はチロシンキナーゼ(SYKを含む)阻害剤Herbimycin Aの添加により抑制された。 4.U-73122によるPLCγ1の活性阻害はcAMP依存的な鞭毛での細胞内カルシウム濃度上昇とハイパーアクチベーション(HA)発現を阻止した。 以上の結果から,ブタ精子SYKの基質分子PLCγ1はcAMP依存的なHAを制御すると考えられる。また,PLCγ1活性を化学的に抑制することで,精子の受精能力発現を抑制できるといえる。 他方,PLCγ1活性の抑制を目的とするPLCγ1ペプチド断片導入法について,2種類のキット[Bioporter(GST社)とChariot(Active Motif社)]を用いて検討したが,いずれの製品についても試薬あるいは導入操作に精子の運動性を著しく低下させる要因が存在し,本研究の条件を満たすペプチド導入法を見出すことは困難であった。 PLCγ1以外の受精能力発現制御分子の特定を試みたところ,cAMP-PKAシグナリングの下流因子としてPKCが見出され,またこのPKCの活性をRo-32-0432で特異的に阻害することでcAMP依存的HAを抑制できた。しかしRo-32-0432は精子の移動に必要な活発な鞭毛運動にはほとんど影響しなかった。つまりこのPKC阻害剤により,ブタ精子鞭毛での受精発現を適度に抑制可能であると考えられる。
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