研究概要 |
ブタの骨格筋異常の代表的なものとしてストレス症候群(Porcine Stress Syndrome, PSS)に典型的な例が見られる。ストレス感受性遺伝子(PSS遺伝子)を有する個体においては、しばしばトラック輸送などのストレスが誘発要因となり、強い筋硬直とそれに関連した筋肉の代謝異常が引き起こされる。この結果、筋肉タンパク質分解の亢進、pHの異常低下、保水力低下によるドリップの発生および白色化が起こり、食肉としての価値が著しく低下する。 本研究では、この筋異常の細胞内メカニズムの解明を目指して以下の一連の実験を行った。まず、ストレスホルモン(グルココルチコイド)を投与したストレスモデルブタから骨格筋を採取し、筋異常に強く関わると考えられる遺伝子アトロジン-1の発現量をリアルタイムPCR法によって調べた。しかし、予想に反してアトロジン-1の発現量はストレス時に変動しない結果が得られた。そこで、より詳細な筋萎縮のメカニズムを調べるため、C2C12培養筋肉細胞を用いた実験を行った。そして筋肉細胞をグルココルチコイドで処理すると、アトロジン-1mRNA発現量が7-8倍に大きく増加すること、ならびにインスリン様成長因子IGF-1が筋萎縮の緩和に有効であることを明らかした。さらにストレス時における筋細胞の超微細構造の変化を調べるため、マウスにグルココルチコイドを投与し、筋萎縮を誘発させたモデルを作成し、この動物の筋原線維の変化を透過型電子顕微鏡によって調べた。その結果、筋原線維の束化に重要な中間系フィラメントの主要構成タンパク質デスミンの消失が観察された。 以上より、ストレスによる筋異常あるいは筋萎縮にはアトロジン-1が重要な役割を果たしていることが示され、筋細胞のデスミンの消失が筋異常の引き金となっており、これらを抑制あるいは緩和するにはIGF-1が有効であることが示唆された。
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