ニワトリを始めとする鳥類は、空腹時であっても300mg/dl以上の高血糖を維持しているにもかかわらず、循環系、神経系の障害といった糖毒性が発生しない。本研究では、まず、鳥類の血糖値が高いことに関しては、積極的に高いレベルにコントロールしているのか否かについて検討した。ニワトリに血中グルコース負荷試験を行い、グルコース消失速度を調べたところ、上昇した血糖値は極めて速やかに投与前のレベルに回復することが判明した。このことは、充分な制御がかかった上で高血糖を維持していることを意味する。しかしながら、哺乳動物でインスリンの作用に不可欠な4型グルコース輸送体の存在が骨格筋および脂肪組織において検出することができなかった。また、インスリン刺激後に骨格筋におけるインスリン受容体の自己リン酸化やIRS1-4のチロシンリン酸化を調べたが、いずれも応答は認められなかった。従って、ニワトリの血糖降下機序が、哺乳動物とは本質的に異なることが示唆された。次に、哺乳動物の糖尿病時に糖毒性による障害を受ける血管系について、電気生理学的解析を行った。ニワトリ前腸間膜動脈縦走平滑筋は、ATPを神経伝達物質としたプリン作動性神経の強い支配を受けており、哺乳動物とは異なる非常にゆっくりとした脱分極反応が記録された。また、ニワトリ前腸間膜動脈輪走平滑筋については、プリン作動性神経と内皮細胞の相互作用によって、ゆっくりとした過分極反応が誘発されることが明らかになった。さらに、ニワトリの血管系の神経支配は、成長に伴って変化することも明らかにした。これらの結果は、ニワトリの血管系が哺乳動物とは異なる神経支配を受けていることを示唆している。このことは、ニワトリの血管系が糖毒性による障害を受けないことと考えあわせると、非常に興味深い知見と言える。
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