研究概要 |
オボアルブミンは卵白のタンパク質の54%を占める主要なタンパク質であるが、その機能は不明である。オボアルブミンはセルピン(セリンプロテアーゼインヒビター)に属することと発生中の胚の組織に分解を受けずに取り込まれていることからその機能が注目された。オボアルブミンを欠如できる胚培養を確立し、オボアルブミン欠損胚では多くに発生異常が観察されたが、特に発生初期では中枢神経系の形成に異常が見られ、神経管閉鎖障害(NTD)となった。NTDはヒトでも見られる発生異常でその原因はよく分かっていない。オボアルブミンを欠損した胚の解析を形態的、遺伝子、タンパク質レベルで行った結果、形態的には神経細胞への分化が抑制され、上皮組織の亢進が見られた。神経管の形成には多くに遺伝子群が関わっており、その中でも脊索から分泌されるsonic hedgehog,神経管で発現しているPax3,6,7、神経管上皮細胞で発現するBMP2,4,7や神経提で発現するslugや細胞増殖・接着に関わる遺伝子Wntおよび神経細胞の分化誘導機能をもつFGF8について遺伝子の発現量および局在性について調べた。これらの遺伝子はオボアルブミン供給胚とオボアルブミン欠如胚では、slugとFGF8については遺伝子発現量の減少と発現場所に変化が見られ、また、Pax3の発現亢進が観察された。FGF8はBMPのはたらきを抑制して、上皮組織の形成を阻害し、また、神経幹細胞にはたらいて神経細胞への分化を誘導することからFGF8の減少はNTD胚で観察される上皮組織の亢進と一致している。また、Pax3の発現亢進によって神経管の背側形成が促進され、神経管閉鎖障害の原因となっていることが示唆された。Slugについては神経提細胞の増殖・分化が阻害されていると考えられ、神経管だけでなく、オボアルブミンの欠損によって、多くの組織で異常が発生する原因となっていると推定した。
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