腸炎ビブリオは汽水域で増殖する汽水細菌である。沿岸海域には腸炎ビブリオを宿主とするするデロビブリオ類縁細菌(BALO)が分布しており、河口から流出した腸炎ビブリオはBALOの感染を受けて死滅すると考えられる。そこで、高知県の室津川汽水域と隣接する室津漁港、島根県の佐陀川汽水域と河口内に位置する恵曇漁港でBALOの分布と潮汐・降雨との関係を解析した。その結果、室津川汽水域に蓄積したBALOと腸炎ビブリオは降雨により流出して室津港に流入したが、10日以内に汽水域の菌数が回復した。佐陀川汽水域には好塩性BALOと微好塩性BALOが分布していた。汽水域ではBALOと腸炎ビブリオの菌数に逆相関が見られたことから、BALOが腸炎ビブリオの菌数を抑制していることが判明した。 TDH産生株が汽水域に蓄積した時期に川の上流城でまとまった雨が降れば、汽水域の泥に蓄積した腸炎ビブリオが流出し、漁港や養殖場に入って魚介類を汚染し、食中毒を起こすと予想される。平成16年に新潟県で発生した豪雨による腸炎ビブリオの流出と、豪雨の後に多発した腸炎ビブリオ食中毒事件の発生機構を解析した。豪雨から2週間後の7月27日に新潟市沖で捕獲して新潟港に水揚げした5尾のアジから23〜240/gの腸炎ビブリオが検出された。アジから検出される腸炎ビブリオの菌数はその後徐々に減少した。豪雨の直前までに水揚げしたアジからは本菌が検出されていなかった。このことは、豪雨で増水した阿賀野川或いは信濃川から流出した腸炎ビブリオがアジを汚染したことを示唆している。この豪雨で新潟県北部の村上市を流れる荒川が増水した7〜14日後に、新潟県北部4市町村で血清型O3:K6のTDH産生菌によるイワガキとイガイを原因食品とする腸炎ビブリオ食中毒が多発した。これはこの地域の河川の汽水域から流出した腸炎ビブリオが北部の岩礁地帯で二枚貝を汚染したためと推定される。
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