1.欠失変異体を用いたC. septicumα毒素の病原性発現機構の解析 C. septicumα毒素分子上の病原性発現に関わる領域を特定するため、α毒素を中和するモノクローナル抗体(7クローン)を作成し、α毒素分子の欠失変異体を用いて、これらモノクローナル抗体が認識する領域の解析を行った。毒素中和能を有するモノクローナル抗体のほとんどがα毒素分子の212番目のトレオニンから276番目のトレオニンまでの領域を認識していたことから、毒素分子のC末端領域が活性発現に重要な役割を担っていることが明らかになった。 2.α毒素分子のαアクチンへの結合と筋収縮 ヒトのガス壊疽感染症における死因は急性心不全であると考えられている。急性心不全の直接的な原因がα毒素によるものかを確かめるためにマウス胎児の初代心筋細胞とラット灌流心臓を用いて解析を行った。心筋細胞と灌流心臓のいずれにおいても、α毒素添加後、速やかに心拍動の停止が観察された。α毒素は形態的変化を伴った壊死が起こる前に自立性拍動を停止させ、停止時間は濃度依存的であった。この結果は、α毒素が細胞壊死とは別の機構で心筋細胞の拍動を停止させることを示唆している。α毒素は細胞膜上のGPIアンカー蛋白と結合する以外に細胞内の心筋αアクチンと特異的に結合することは昨年既に報告している。今回、α毒素とアミノ酸の相同性は高いが心臓に対して病原性のないアエロモナスの溶血毒であるAerolysinはαアクチンとは結合しなかった。一方、相同性は全くないが、α毒素と同じ心臓毒性を有するビブリオ菌の溶血毒素であるTDHはα毒素と結合した。これらの結果は、心筋αアクチンへの結合は心臓毒共通の特徴である可能性を示唆している。今後、α毒素による心停止機構とαアクチンへの結合との関連を分子レベルあるいは細胞・臓器レベルで解析していく予定である。
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