研究課題
今日、獣医学領域において十分なドナー血液を入手するのは困難な現状である。その解決策として考えられる方法の1つに赤血球の凍結保存が上げられる。赤血球の凍結保存を行う場合に必要である凍害保護物質として細胞内性、細胞外性のものがある。前者で汎用されるGlycerolは現在の人医学では-196℃液体窒素で使用されているが、解凍時の繁雑な脱Glycerolが必要である。後者のHydroxyethyl starch (HES)は抗原性が少なく、生体内で分解されることからその応用が期待されている。本研究の結果、(1)in vivoで-196℃液体窒素でHES保存血を用いた自己輸血ではGlycerolと比較して輸血反応が少なかったが、液体窒素での保存はコストや使用管理面から問題が残った。(2)-196℃で急速冷却後に-80℃超低温フリーザーに移すin vitroの実験を行った結果、ヘモグロビン回収率、浸透圧脆弱試験はともにGlycerol群よりもHES群の方が良好であった。(3)保存期間による影響をみた結果、24時間1カ月、2カ月、3カ月保存血群のHb浸透圧脆弱試験での50%溶血食塩濃度、走査電子顕微鏡観察による赤血球の形態的分類ではそれぞれの保存期間と非凍結群間に有意差は認められなかった。(4)本2ステップ法をin vivoに応用するために正常ビーグル犬を用い、-80℃凍結保存血の自己輸血を行い、輸血後の副作用の発現について検討した結果、HES保存血投与群の回収率は90.5±0.01%と高かったが、輸血直後と2時間後の血中の血色素およびビリルビン濃度、さらに尿中ビリルビンの一過性の上昇が認められた。しかし、輸血24時間後の血色素およびビリルビンは血中と尿中において投与前と同程度までに回復した。その他の赤血球数、白血球数、体温や心拍数などは、Control群(24時間液状4℃保存洗浄後投与)と有意差は認められなかった。(5)以上、本研究から2ステップ法による-80℃でのHES保存血液を用いた犬の自己輸血の安全性が示唆された。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (1件)
Low Temp.Med. 31
ページ: 33-35