研究概要 |
犬のCushing病患者に対してはop'-DDD(Mitotane製剤)を使用した治療が一般的に普及している。視床下部-下垂体-副腎皮質軸の生理学的相互関係を考慮した場合、Gushing病患者に対して副腎皮質機能を抑制することは下垂体線腫の機能を亢進させる危険性が危惧される。そこで、健常ビーグル犬に対して30日間op'-DDDを投与することにより副腎皮質機能抑制モデル犬を作成し、これが下垂体ACTH産生細胞に及ぼす影響について形態的(頭部MRI検査、下垂体ホルモン・転写因子を指標とした免疫組織化学)そして機能的(CRH刺激試験、下垂体におけるPOMC, CRHR, GR, MRの各mRNAの発現強度)に検討した。健常ビーグル犬を対照として使用した。副腎皮質機能抑制モデル犬では対照群と比較して有意なPBRの増大、CRH試験時のACTH濃度の上昇が認められた。また対照群と比較してモデル犬の下垂体Corticotrophは顕著に肥大しており、さらにPOMC mRNA転写活性は有意に亢進していた。同様にモデル動物の視床下部・室傍核においては対照群と比較してCRH産生細胞数の有意な増加が認められた。今回、作成した副腎皮質機能低下症モデル動物では、Cortisolの産生低下、すなわちNegative-feedbackの減弱に起因すると考えられる視床下部・室傍核におけるCRH産生細胞数の増加、そして下垂体Corticotrophの機能亢進を示唆する多くの所見が確認された。今回の成績は犬のCushing病患者に対してop'-DDD(Mitotane製剤)を使用することは本疾患の原因ともなるACTH産生性下垂体腺腫の機能亢進を促す危険性があることを示唆しているかもしれない。
|