本年度は主にスルホンアミド結合を有する化合物について検討を行った。スルホンアミド結合は、医薬品や生体関連物質にしばしば見られる構造単位である。それらの立体構造は、活性発現において重要な因子の一つであると考えられるが、芳香族スルホンアミドの立体化学に関する詳細な研究は少ない。本研究から得られた結果により、まず、芳香族スルホンアミド化合物の立体化学を生理活性物質などの機能を持つ分子のデザインに適用することが可能となった。また、これまでの研究成果から予想されたように、o-phenylenediamineおよびanilineのスルホンアミド誘導体は芳香族アミドと同様、異常に高い確率で不斉結晶化を示すことがわかった。従ってこの骨格を用いることにより、不斉配位子としての「不斉結晶化を示す化合物」を効率的に合成することができるようになった。しかしながらこれらの骨格を持つ化合物がなぜ高い確率で不斉結晶化を示すかについては未だ明らかではない。さらに不斉結晶化という現象がどのように起こるかについても今後の課題である。不斉結晶化は結晶核形成過程における不斉増殖であると考えられる。不斉結晶化を示した芳香族スルホンアミド類のうちのいくつかは溶液中数分子のクラスター構造を形成していたことから、これらの化合物ではそのクラスター構造がすでにキラルであるということも考えられる。結晶のキラリティがどの段階で決まるのかについても含め、来年度の課題とする予定である。
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