2001年12月にタイ国バンコク東側に位置するチョンブリ地方、シーシャン島沿岸に生息する青色海綿Xestospongia sp.(湿重量、8.4kg)のメタノール浸透液をリン酸緩衝液によりpH7に調整してから、10% KCN水溶液処理、続く分配抽出により得たアルカロイド含有画分(16.2g)から主成分としてrenieramycin M (RM:1.822g)を得た。次にマイナー成分の探索を実施した結果、5つの新規天然物、RN(247mg)、RO(43.5mg)、RQ(18.5mg)、RR(101.2mg)、RS(15.0mg)か得られた。またRM→RE(69.6%)、RM→RJ(69.6%)、RM→RR(35.1%)、RN→RO(69%)など本系既知極微量成分への変換に成功した。またRMからインドのマンダパン湾に生息する海洋生物Jorunna funebrisの極微量代謝産物として最近報告されたJorumycinへの変換に成功した。さて、本系海洋天然物の単離にあわせてrenieroneやmimosamycinなどのシンプルイソキノリンアルカロイドが見いだされている。しかしながら、我々が考案した原海洋生物のKCN前処理を組み込んだ探索研究ではこれらのアルカロイドが全く得られない。一方、カルビノールアミン単位を含むREやjorumycinは化学的に不安定であり、クロロホルム中、室温で放置すると徐々に分解する現象を見いだした。そこでこれらをクロロホルム中、触媒量のプロトン酸と酸化剤共存させて積極的に分解させたところRMからrenieroneとmimosamycinが、またjorumycinからrenierol acetateとmimosamycinが得られることを明らかにした。また、その斬新な分解機構を推定した。さらに天然物の化学的変換により様々なrenieramycin誘導体を合成し、HCT116、QG56、DY145などのヒト実験腫瘍細胞に対する生物活性試験を実施した。その結果、ナノモルスケールで活性を示すいくつかの化合物を見いだすとともに、7位に水酸基あるいはCN基や2つのキノン環の存在が活性の発現には必須であることを明らかにした。なお、9位側鎖エステルを加水分解しても活性が維持される点は興味深い。一方、RMを標的とする全合成研究を展開し、その基本骨格の構築に成功した。
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