研究概要 |
本研究は、筆者らが明らかにしてきた特異な反応性を示す金属ポルフィリン触媒の不斉合成反応への展開を目的として、「対面型不斉ダブルデッカーポルフィリン触媒」の開発及び、これを実現するうえで必要不可欠となるいくつかの関連する事項について検討し、以下の結果を得た。 (1)エポキシアルコール誘導体に触媒量のCrポルフィリン錯体Cr(TPP)OTfを作用させると、アルキル基が選択的に転位し、アルドール誘導体が得られる。この反応は、高立体選択的に進行するため、不斉アルドール誘導体の簡便な合成法として利用できることを明らかにした。 (2)上記の反応において、ポルフィリン触媒Cr(TPP)OTfをフタロシアニン触媒Cr(PC)OTfに換えたところ、i)反応時間の短縮、ii)基質一般性の向上、及びiii)触媒の回収・再利用などが容易に達成できることを見出した。 (3)金属ポルフィリン触媒Cr(TPP)ClをアリルビニルエーテルのClaisen転位反応に適用したところ、通常の熱転位とは逆のZ配置を持つγ,δ-不飽和アルデヒドが優先的に生成することを見出した。この反応は、触媒的にZ選択的Claisen転位反応を達成した初めての例である。 (4)Pd(0)触媒存在下、meso位またはβ位がプロム化された無金属ポルフィリンにシアノエチル臭化亜鉛を作用させると、この有機亜鉛反応剤がシアン化物イオン源として働き、対応するシアノポルフィリン亜鉛錯体を高牧率で与えることを明らかにした。 (5)ポルフィリンにシリルメチルリチウムを作用させた後、DDQで処理することによりポルフィリンのmeso位にホルミル基が導入できることを見出した。また、この反応途上で生じるアニオン活性種を種々の親電子剤で捕捉することにより、二つのmeso位にホルミル基とエノン部位やアシル基を併せ持つ非対称ポルフィリンがone-potで合成できることを明らかにした。 (5)二つのポルフィリン間のπ-π相互作用のコントロールが容易な対面型ポルフィリン二量体を開発し、この分子をホスト分子として用いることにより、従来困難とされていた室温付近でのCDスペクトルによる光学活性モノアルコールなどの絶対配置決定が容易に行えることを明らかにした。
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