研究概要 |
今年度は,生体アミン(セロトニン)を識別する高性能イオン電極の開発を試みた。これまでの研究で、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)を用いた電極は、セロトニンに対して比較的強く応答することが見出されている。その効果は「セロトニンのNH_3^+基」と「リン酸トリス(2-エチルヘキシル)のホスホリル(P=O)基の負に分極した酸素原子」との強い相互作用に起因している。そこで、今回、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)のほかに、P=O基を有する一連の化合物(2-エチルヘキシルボスホン酸ビス(2-エチルヘキシル)、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフィン酸2-エチルヘキシル、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフィンオキシド)をとりあげ、セロトニンに対する応答性を比較検討した。その結果、より多くのアルコキシ基が電子放出性のアルキル基に置換され塩基性度が増大した化合物ほど、生理食塩水中でのセロトニンの検出感度が向上することが明らかにされた。化合物の塩基性度の増大とともに、ヘキシルアンモニウムなどの有機アンモニウムイオンとの識別能も向上した。このことは、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフィンオキシドのようにP=O基がより負に分極した酸素原子は、NH_3^+基のみならずセロトニンのOH基との相互作用にも有利に働くことを示した。トリス(2-エチルヘキシル)ホスフィンオキシドは、これまで開発されたセロトニン電極のなかで最も高い検出感度を示した。この電極を用いて、うさぎ血小板からトロンビン刺激により放出されるセロトニンをその場で定量することができた。 さらに、本研究では、非ステロイド系抗炎症薬による胃粘膜傷害作用は細胞膜の透過性増大に起因することを、イオン電極法による細胞質からのカリウムイオン流出の測定から明らかにしている。
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