本研究の目的は、抗原ペプチド結合のメカニズム及びMHCクラスI分子の成熟過程をNMRを用いた構造生物学的手法により明らかにすることである。 本年度は、以下の2つの手法を比較することにより、まずempty MHC分子作成の最適化を行った。 (1)重鎖CW0702の特異的な抗原ペプチド存在下で酸化的リフォールディングを行い正しいジスルフィド結合を形成させ、その後再び変性させて抗原ペプチドを解離させ、抗原ペプチド非存在下であらためてリフォールディングを行う、(2)ジスルフィド結合が形成されていない状態より抗原ペプチド非存在下で酸化的リフォールディングを行う。両者の収率を比較した結果、(1)の手法によりempty MHCを効率的に作成できることが明らかとなった。 次にMet残基、Cys残基選択的に安定同位体標識を施した重鎖を用いてempty MHC分子を作成し、抗原ペプチド非存在下におけるMHC分子の構造をNMRにより解析した。その結果、重鎖α3ドメインは高次構造をほぼ保持していること、また抗原ペプチド結合部位を構成する重鎖α1・α2ドメインは特定の高次構造をとらない状態にあることが明らかとなった。 次に抗原ペプチド非存在下における重鎖α1・α2ドメインのアンフォールディングが、軽鎖に及ぼす影響を調べた。まず^<13>C、^<15>Nで均一に安定同位体標識を施した軽鎖を用いてMHC分子を作成し、軽鎖のアミノ酸残基由来のNMRシグナルを連鎖帰属法により帰属した。帰属されたシグナルを用いて抗原ペプチド非存在下のMHC分子中の軽鎖の構造を解析した結果、重鎖α1・α2ドメインのアンフォールディングにより軽鎖の構造は大きく変化しないが、重鎖α1・α2ドメインとの相互作用面に位置する特定のアミノ酸残基はそのアンフォールディングの影響を受けることが明らかとなった。
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