1.抗原ペプチド結合メカニズム解明に有用である抗原非結合状態のMHC分子(empty MHC)をリフォールディングにより大量に調製する方法を確立した。 2.重鎖に様々な安定同位体標識を施したempty MHCの^1H-^<15>N HSQCスペクトル測定により、抗原ペプチドを結合していない状態においてα3ドメインは高次構造を保持しているのに対し、抗原ペプチド結合部位を構成するα1およびα2ドメインは部分的にほどけた状態にあることが明らかとなった。 3.重水素化および各種NMRスペクトル測定により、MHC分子中の軽鎖に由来するNMRシグナルの87%についてその帰属を確定した。この帰属を用いたempty MHCのNMR解析より、軽鎖の立体構造にたいして抗原ペプチドの解離が影響する領域は、抗原ペプチド結合部位の直下に位置するF56、W60、F62、Y63の疎水性クラスターおよびその近傍であることが明らかとなった。 4.抑制性のシグナルを伝達するレセプターであるLILRB1およびLILRB2とMHC分子との相互作用をNMRにより解析し、MHC分子中の軽鎖におけるこれらのレセプター結合部位を明らかとした。 5.MHC分子の高次構造形成を補助する分子シャペロンであるカルネキシン、カルレティキュリンとMHC分子の相互作用の表面プラズモン共鳴法による解析から、両シャペロンは糖鎖修飾を受けていないMHC分子とも相互作用すること、さらにempty MHC分子に対してより高い親和性を示すことが明らかとなった。この結果は、これらのシャペロンが糖鎖のほかにempty MHCにおいて分子表面に露出している疎水性のポリペプチド鎖部分も認識していることを示すものである。
|