研究概要 |
架橋配位子としてヒドロキソおよびピラゾール(またはトリアゾール)を含む新規白金複核錯体は、シスプラチン耐性癌細胞の増殖抑制能を有し、かつ、従来の白金錯体にはない、新しい3つの反応特性を備えていることが本研究により明らかにされた。本年度は、3つの新奇反応のうち、核酸との非共有結合性相互作用及び核酸塩基との置換反応における白金配位の転位について詳細に検討を行った。 (1)塩基配列を特定した合成オリゴマーDNAとの反応をNMR(NOESY)法等により解析したところ、白金錯体は核酸のminor grooveに位置し、アンミン配位子と核酸塩基との間の水素結合を介して核酸の鎖間を架橋していることが明らかになった。この反応に際しては、配位結合が生じないように低温下で行った。 (2)1,2,3-トリアゾールを含む二核錯体においては、2つの白金原子はそれぞれトリアゾールのN1およびN2に結合する。しかし、本錯体が2分子の核酸塩基と置換反応を行うとき、OH架橋が切れて、二核錯体はPt-トリアゾール-Pt型の錯体になり、同時にN2-Pt結合がN3-Pt結合に転位することを見出した。すなわち、1,2,3-トリアゾールを含む錯体は核酸塩基との反応過程で極めてユニークな転位反応を行うことを明らかにした。なお本研究は、大阪薬科大学客員研究員米田誠治博士との共同研究により行われた。 さらに、シスプラチン耐性癌細胞増殖抑制能と新奇反応との相関を考察するための基礎的データを得る目的で、本複核錯体のアポトーシス誘導機構に関する研究を行った。その結果、本複核錯体はシスプラチンと同様にアポトーシスを誘導するものの、シスプラチンとは異なる機構により癌細胞に作用しアポトーシスを誘導することを認めた。
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