研究概要 |
1 副腎白質ジストロフィー(ALD)は極長鎖脂肪酸の蓄積を特徴とする神経変性疾患である。本研究では最初に症状が現れる脳由来グリオーマ細胞株を用いて、siRNA法によりALDPのノックダウン細胞を作製し、脂質代謝系への影響を分析した。その結果、グリア細胞株ではALDPをノックダウンすると極長鎖脂肪酸のβ酸化活性は有意に減少し、コレステロールエステルへの極長鎖脂肪酸の取り込みは有意に増加した。これらの極長鎖脂肪酸代謝の変化は、ALD患者由来線維芽細胞での結果と一致した。また、ALDPノックダウン細胞では、コレステロールやスフィンゴミエリン合成の減少が確認された。これはALD患者脳病巣部ではコレステロール及びスフィンゴミエリンの減少するこれまでの結果と矛盾しない。従って、グリア細胞株のALDPノックダウン細胞を用いてALDPの機能を分析することは、神経変性のメカニズム解明に有効であることが示された。 2 ALDノックアウトマウスおよび正常マウスの脳からグリア初代培養を行った。ミクログリアの極長鎖脂肪酸β酸化活性を測定したところ、正常に比べてALDマウス由来のミクログリアでは有意に減少していた。またアストロサイトの脂肪酸β酸化活性も有意に減少していた。この活性の減少とアシルCoA合成酵素、及び脱ミエリン化反応がどのように関連しているか、今後詳細に検討する予定である。 3 植物フラボノイドbaicalein 5,6,7-trimethyl ether(BTM)がALD患者由来繊維芽細胞のペルオキシソームの脂肪酸β酸化系、及びコレステロールエステル合成を正常化する作用があることを示した。しかし、アシルCoA合成酵素との関連性は認められなかった。今後、このBTM及びその誘導体を合成し、標的組織由来のグリア細胞を用いて、その効果を検討していく予定である。 以上の結果から、グリア細胞系でのペルオキシソーム膜ABCタンパク質ALDPの機能解析、及び中枢神経系特異的なアシルCoA合成酵素とALDPの関連性を解析することが可能となった。さらに作製したALDモデル細胞を用い、フラボノイド誘導体の治療薬としての効果を解析することが可能となった。
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