炎症性応答を伴うミクログリアの活性化がパーキンソン病において認められる中脳ドパミンニューロンの変性に関与すること、および家族性パーキンソン病原因遺伝子産物の一つであるDJ-1が酸化的ストレス制御機能を有することが示唆されており、これらの点について活性窒素種の関与を中心に検討した。1.培養中脳切片にトロンビンを処置すると、切片内のドパミンニューロンに対して選択性を呈する神経毒性が発現した。トロンビン処置により誘導されるドパミンニューロンの変性は、MAPキナーゼファミリーの活性化とその後の誘導型一酸化窒素(NO)合成酵素の発現増大、NO産生の増大を伴っており、MAPキナーゼあるいはNO合成酵素の阻害はトロンビン誘発ドパミンニューロン死を顕著に抑制した。また、クロドロン酸を前処置することによって切片内のミクログリアを予め除去しておくと、トロンビンによるドパミンニューロンの変性誘導は妨げられた。一方、切片内のドパミンニューロン以外の細胞の障害に対して、NO合成酵素の阻害やミクログリアの除去は無効であった。以上のことから、トロンビンはミクログリアの活性化とNO産生増大を介してドパミンニューロンに対する選択的毒性を発現することが示唆された。2.SH-SY5Yヒト神経芽腫細胞において内在性DJ-1の発現を抑制すると、6-ヒドロキシドパミン、過酸化水素、NOドナー等の細胞毒性が有意に増強された。またSH-SY5Y細胞やC6ラットグリオーマ細胞に低濃度の過酸化水素を処置するとDJ-1の発現が増大した。これらの結果は、DJ-1が酸化的ストレスに対する内在性防御機構の一部として働いており、活性窒素種により誘導される細胞障害の制御においても重要な役割を担っている可能性を示している。
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