(16年度) 肺癌を中心としたヒト癌細胞株におけるSprouty-2転写物の二つのタイプ、L-Spry2(long formでその発現はERK系に依存するタイプ)とS-Spry2(short formでその発現はERK系に依存しないタイプ)の発現量とEGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬(イレッサ)に対する感受性についての相関性について検討したところ、L-Spry2のみを高発現する肺癌細胞が最も感受性が高く、S-Spry2のみを高発現するものではイレッサ抵抗性になることを見出した。イレッサ感受性決定因子としてのEGF受容体の活性型変異体の有無に加えて、新しいバイオマーカーとしてのSprouty-2転写物の意義について更に検討中。 (17年度) イレッサ抵抗性癌細胞に対する新しい戦略として、EGF受容体以降の重要な二つのシグナル経路である、ERK-MAPキナーゼ(増殖シグナル)とPI3キナーゼ/Akt経路(生存シグナル)に注目し、それぞれの経路遮断剤と新規及び既存の抗癌剤とを併用した新しい癌化学療法の開発をめざして次のような検討を行った。 1、ERK経路の選択的遮断剤であるMEK阻害剤と新規分子標的薬であるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤との併用療法により、本経路の恒常的活性化を示す癌細胞に対して極めて効率の良い細胞死を誘導できることを見出した。また、本併用療法はイレッサ感受性によらず有効であった。 2、PI3K/Akt経路の選択的遮断剤とドキソルビシンを併用することで、本経路の活性化を伴い、野生型p53をもつ癌細胞に対して極めて効率の良い細胞死を誘導できることを明らかにした。 以上のような画期的な併用療法は、EGF受容体の活性化を伴う癌細胞に対して、イレッサとともに新しい癌分子標的治療法としての可能性を提示していると考えられた。
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