研究概要 |
O_2/CO_2ガス交換は,肺,特に肺胞-血管界面の最も重要な機能であることは云うまでもなく,ガス交換の場となる肺胞上皮I型細胞の機能とも密接に関係する.しかし,肺胞上皮細胞の細胞膜ガス透過性は,従来,全く研究されていない.本研究は,肺胞I型上皮細胞が他の細胞種に比べ著明に高い細胞膜CO_2ガス透過性をもつという我々のこれまでの成績をもとに着手し,ガス透過性亢進機構ならびにその調節機序を明らかにすることを目的とし,既に肺胞I型上皮細胞に選択的に発現する水チャネルaquaporin-5 (AQP5)が,水分子のみならずCO_2ガス分子の細胞膜透過に重要であることを明らかにしてきた.そこで本年度は,細胞膜上のAQP5発現の調節について調べた.その結果,まず,細菌由来の毒素であるLPSがp38 MAP kinaseを介して,細胞内局在を変化させ膜上のAQP5量を増加させることが判明した.一方,AQP5の転写レベルではAQP5プロモーター領域の-1.2kb付近に存在するSp1/Sp3結合部位がI型細胞での発現に必須であることを明らかにした.さらに,この転写は,Sp1により促進され,Sp3では逆に抑制されることがわかった.さらにラット肺切片を免疫組織化学的に調べると,Sp1が肺胞I型およびII型細胞に存在していたのに対し,Sp3はII型細胞だけで存在していた。以上の結果より,ガス交換の効率化に関わる肺胞I型細胞のAQP5の発現調節は,まずSp3による転写抑制の解除という転写レベルでの調節重要であり,さらにp38 MAP kinase依存的局在変化という転写後調節の二重の調節を受けていることが明らかとなった.これらの成績は,肺胞のCO_2ガス透過性が可変的であることを示唆するとともに,その調節機序を考える上で極めて重要な基礎データである.
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